第2回:1981年以降の新耐震基準なら本当に大丈夫?
中古マンションをみる上で、何よりも気になるのが安全な建物かどうかという点。そのひとつの目安になるのが、いつ、どのような法律のもとで建てられたマンションかということ。もちろん、個別性が高いのでひとくくりにはできないが、それでも建設時期によってある程度の判断を下すことは可能だ(表参照)。
わが国のマンション関係小史
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1956年 |
わが国初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」分譲 |
1957年 |
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1958年 |
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1959年 |
建築基準法改正(必要壁量の規定を設置) |
1960年 |
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1961年 |
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1962年 |
「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)制定 |
1963年 |
第1次マンションブーム始まる |
1964年 |
新潟地震(M7.5) |
1965年 |
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1966年 |
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1967年 |
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1968年 |
十勝沖地震(M7.5)、第2次マンションブーム始まる、わが国初の超高層ビル「霞が関ビル」竣工 |
1969年 |
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1970年 |
マンションが旧住宅金融公庫融資の対象になる |
1971年 |
建築基準法改正(設計基準見直し=旧耐震基準)、超高層マンションの先駆けといわれる「三田綱町」パークマンション竣工 |
1972年 |
第3次マンションブーム始まる |
1973年 |
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1974年 |
日本初のRC造マンション「椎名町アパート」竣工、長谷工の標準設計システム「コンバス」誕生 |
1975年 |
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1976年 |
わが国初の超高層マンション「与野ハウス」竣工 |
1977年 |
第4次マンションブーム始まる |
1978年 |
宮城県沖地震(M7.4)、当時日本一の高さの「サンシャイン60」竣工 |
1979年 |
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1980年 |
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1981年 |
建築基準法改正(新耐震基準、必要壁量の改正) |
1982年 |
中高層共同住宅管理規約作成(旧建設省) |
1983年 |
区分所有法改正(所有者の5分の4の賛成で建て替え可能に) |
1984年 |
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1985年 |
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1986年 |
第5次マンションブーム始まる、バブル経済始まる |
1987年 |
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1988年 |
わが国初の高強度コンクリートの「西戸山タワーガーデン」竣工 |
1989年 |
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1990年 |
不動産向け融資の総量規制実施 |
1991年 |
バブル崩壊始まる |
1992年 |
「公示地価」の下落始まる、新築マンション分譲価格大幅下落 |
1993年 |
第6次マンションブーム始まる |
1994年 |
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1995年 |
阪神・淡路大震災(M7.3) |
1996年 |
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1997年 |
中高層共同住宅管理規約改正(標準管理規約と改め、20年以上の長期修繕計画の規定設置)、世界初の超高層免震マンション「パークシティ杉並」竣工 |
1998年 |
当時日本一の高さの超高層マンション「エルザタワー55」竣工 |
1999年 |
この頃から超高層マンション急増 |
2000年 |
住宅の品質確保の促進等に関する法律(性能保証、性能表示など) |
2001年 |
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」施行 |
2002年 |
「マンションの建て替えの円滑化等に関する法律」施行 |
2003年 |
区分所有法改正(維持管理に過分の費用がかかるなどの条件なしに、所有者の5分の4だけの賛成で建て替え可能に) |
2004年 |
マンション標準管理規約改正(長期修繕計画は25年以上、新築は30年程度に) |
2005年 |
耐震構造計算偽装事件発覚 |
2006年 |
住生活基本法施行、高さ日本一のマンション「クロスタワー大阪ベイ」竣工 |
2007年 |
建築基準法改正(ピアチェックの導入) |
わが国では、大地震で大きな被害が出るたびに建築基準法が改正され、耐震性能が強化されてきた。それまでは建築基準法で必要壁量の規定が設けられていた程度だったが、1968年の十勝沖地震を受けて71年に旧耐震基準が設けられ、1978年の宮城県沖地震後の81年にはさらに強化されて現在の新耐震基準に改められたのである。これが、現在に至るまでのわが国のマンション建築の基本になっているといっても過言ではない。住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)の住宅性能表示制度の耐震等級においても、この新耐震基準に基づく耐震性能が耐震等級1とされ、これが耐震性能のベースになっている。その上の耐震等級2は新耐震基準の1.25倍の強度を持つマンション、耐震等級3が1.5倍となっている。
宮城県沖地震では、それまでの旧耐震基準で建てられたマンションでも倒壊したケースはなかったが、柱や梁が傾いたり、壁が歪んだことによってドアが開かなくなって閉じ込められる被害など多発した。このため、地震時に建物が変形しすぎないように、81年の新耐震基準では、耐震構造計算式の見直しが行われ、地震によって建物が変形する量に制限が設けられた。併せて、コンクリートのなかの鉄筋の配筋をより緊密なものにすることなどの強化が図られたのである。
この新耐震基準後に発生した阪神・淡路大震災においては、6000人以上の死者が出たが、マンションにおける死傷者は20人ほどで、マンションは一戸建てに比べて格段に安全な住まいであることがわかった。しかも、東京カンテイが震災後に被災地のマンションを調査した結果をみると、大破したマンションは1970年以前の物件では8.5%だったのが、70年から80年までの旧耐震基準の物件では2.3%に減少し、81年以降の新耐震基準のマンションでは0.3%までダウン(図版参照)。比較的安全なマンションのなかでも、81年の新耐震基準以降のマンションはより安全であることが証明されたといえよう。それだけに、新耐震基準のマンションかどうかが、中古マンションを選択する上での重要な目安になるわけである。
●図版:阪神・淡路大震災の年代別被災状況 |
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(資料:東京カンテイ『被災度調査』) |
ただ、注意しておく必要があるのは、81年に新耐震基準が実施されたといっても、81年以降の物件ならすべて新耐震基準に合致しているとは限らない点。建築基準法改正によって新耐震基準が適用されたのは81年6月。この月に新耐震基準で建築確認を取って着工したとしても、竣工は1年後の82年夏から秋以降になる。つまり、確実に新耐震基準後の物件を選択するためには、82年後半から83年以降に竣工した物件に絞ったほうが安心ということになる。もちろん、それ以前の竣工であっても、自主的に新耐震基準以上の耐震性能を持つマンションを建てている場合や、大規模修繕時に耐震補強工事を実施したケースもあるだろう。だが、何より安全性を重視する人なら、新耐震基準以降の物件であることを、中古マンション選びの第一の条件にするのが安心といえよう。