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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.83 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

都市景観を語る言葉 (14)都市緑化の真実

(株)アーキネット代表 織山 和久

緑のアウシュヴィッツ

 上と壁面を緑で覆うことによって建築物全体が太陽の熱を受けるのを和らげれば、ヒートアイランド現象を抑えられる。おまけに憩いの場も増える。そんな発想で行政が緑化を規制・支援し、屋上緑化や壁面緑化が本格化している。その象徴的な例が「目黒天空庭園」、首都高大橋ジャンクションの屋上に設けられた、延長400mほどのぐるりとした区立公園である。ちなみに目黒区が負担した事業費は10億8千万円に上る。

目黒天空庭園 大橋ジャンクションの屋上につくられた人工緑地

 人の数も少なく、のんびりと見晴らしのいい光景で、一見、良さそうである。でもこうした緑化の様子を見ると、建築家 林昌二氏の言葉を思い出す。「緑を増やせとの声が高い。けれども今や緑にとってのアウシュヴィッツが広がっているだけのことです。」(林昌二「建築に失敗する方法」彰国社、1980)。屋上は、植物にとって過酷な環境だ。常に強風が吹いて枝葉にダメージを与え、土壌も乾燥しやすい。人工土壌なので根も深くならないので、植物は十分に水を吸収できずに成長も止まる。根が浅いので突風で倒れ、ひっそりと交換されることもしばしばである。そんなわけで緑の日常管理に区の予算が相当のかかっていることだろう。業者には好都合であるが。
 このように人間の勝手な都合で、植物には苛酷な緑化をしている光景をみたら、「緑のアウシュヴィッツだな」と静かに嘆いてみよう。

まやかしの緑化

 そんな訳で、苛酷な屋上の環境でも放任しておいても育つ植物がよく選ばれる。多肉植物の一種、セダムである。単価も安いので緑化工法に主流となった。でもこれは単に自治体の緑化基準を満たすためだけの、まやかしの緑化である。
 そもそもセダムはサボテンと同じ多肉植物で、葉肉に水分を貯め込んで乾燥に耐える性質がある。つまり通常の草木のような蒸散作用による気温低下などは、元から期待できない。

セダム 葉っぱがぷっくりして水分を貯め込む多肉植物

 もうひとつ深刻な問題がある。セダムは外来種で、しかも繁殖力が高い。葉っぱが一枚、強風でちぎれて下に落ちると、そのまま根を生やして日向の乾燥した場所は席巻することも懸念される。セイヨウタンポポやセイダカアワダチソウなどのように、都市の生態系を変貌させはしないかと心配である。
 屋上緑化でセダムが繁茂しているのを見たら、「まやかしの緑化じゃないか」とそっと呟いてみたい。

百年の計

 でも100年前の先人たちは、苛酷でもまやかしでもない本当の緑化を明治神宮で実現させていた。
 明治神宮の森の広がっている場所は、もともとは荒地だった。神社にふさわしい鎮守の森をつくるには、ということで、当時の優れた学者たちが定めた基本方針は「神社の森は永遠に続くものでなければならない。それには自然林に近い状態をつくり上げることだ」だった。在来の常緑広葉樹、カシ、シイ、クスノキなどを主木として混合林を再現すれば、人手を加えなくても天然更新する「永遠の森」をつくることができると考えた。当時の大隈重信首相が荘厳な杉林に、との発言にも、本多博士らは保身や利権に左右されず、この場所がスギの生育に向かないことを科学的に実証して反論した。成果は100年後、自分たちはこの世にいないにも関わらず!
 この方針の下で50 年後、100年後の森林の変化を4 段階の林相予想図としてまとめ、第1段階では仮の主木としてアカマツやクロマツなどを植え、マツの間には成長の早いヒノキやサワラ、スギ、モミなどの針葉樹さらにその下に将来の主木となるカシや シイ、クスノキなどの常緑広葉樹を植えた。そして100年後、われわれに神宮の豊かな森が手渡されている。本当の都市緑化とはこのように「自然林に近い状態」をつくり上げることだという見事な事例だと思う。
 生態系として森をとらえる。森が自然に出来る環境が、人間の暮らしにもふさわしい環境になる。このような環境からの発想が、先人たちには根付いていたと思われる。決して、人間のための緑化、道具としての緑化ではないのだ。こんな明治神宮の森を目の前にすると、「都市環境は百年の計」と先人たちに感謝の言葉を述べて頭を垂れる気分になる。

明治神宮の森 在来の常緑広葉樹が覆うほぼ手つかずに自然林

 マンションの緑化計画は、アウシュヴィッツやまやかしになっていないだろうか? 100年前に明治神宮で出来たことは、いまは出来ないものだろうか?

筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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