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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.39 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

場の理論(1)
ゾーニング

(株)アーキネット代表 織山 和久

 人間的な規模のコーポラティブハウスならば、落ち着いた住宅街の中でも成立します。右図の赤色のは、下北沢周辺で成立したアーキネットのコーポラティブハウスです。これらの場所は、都市計画図ではライトブルーに塗られた第一種低層住居専用地域に当たり前のように位置しています。
 これと対照的に、規模の大きな分譲マンションではゆったりした住宅街にはなかなか成り立たず、できたときには「公園の緑を感じる第一種低層住居専用地域に○○は生まれます」「第一種低層住居専用地域に暮らす。周辺には、邸宅街として静かに、ゆっくりと成熟してきた街並が広がっています」といった格好のセールストークです。この「第一種低層住居専用地域」のような場所の性格が、どのようにして与えられているか、建物にはどのようなしばりがあるのか、について考えてみましょう。

第一種低層住居専用地域が人気の理由

 まず、第一種低層住居専用地域がなぜマンションの謳い文句になるのか、を探ってみましょう。
 土地利用規制について、日本はアメリカにならってゾーニング(地域地区制)を採用しています。ゾーニングは一般規制手法、すなわち、ある程度の広がりをもった地域において最低限の条件を一律に規定する手法の典型です。「土地の利用規制は個人の財産権の不当な侵害ではないか(土地をどう使おうと持ち主の勝手だろ?)」という主張に対し、ゾーニングは例えば、「住居に対して隣接する工場の騒音や大気汚染が迷惑(外部不経済)にならないようにしましょう」というのを規制の根拠にしています。ちなみに、この一般規制手法に対してドイツなどの都市計画で採用されているのが計画規制手法で、こちらは地区の詳細な計画を提示し、敷地ごとにその用途や形態を細かく規制していく手法です。

 日本のゾーニングは、アメリカと比べてもずいぶんと緩いのが特徴です。用途の混在が許されていないのは、1種と2種の住居専用地域と工業専用区域だけです。工業地域や準工業地域に住宅が入ることは規制されてはいません。都市部では商業系地域が実態より広く指定され、住宅地から商業地に代わるのは抑えられません。用途規制も禁止用途の列挙方式なので、新しい用途が出てくると制限は難しく、対応は後追いです。ゾーニングに応じて建物には形態規制がかかります。形態規制は主に、建蔽率(建物で覆われる土地面積の割合)、容積率(建物の延床面積と敷地面積の割合)、隣地・道路・北側の斜線制限(周りの採光を確保するように建物の高さを仮想の斜面の下に制限)で構成されますが、これはもっぱら外形に関わるだけで、外観や様式、開口位置、素材、壁面位置などは特に制約はありません(例外は景観条例の対象地区)。
 このような緩いゾーニングのために、日本の街並みは、地域として店舗やオフィス、中小工場などと住宅は混在し、しかも建物の表情や外観はてんでバラバラ、と何ともまとまりのない都市景観になっています。日本とドイツは同じように敗戦から復興したのですが、双方の都市景観を比べると、やはり計画規制手法の方がうまくいっています。

 日本のゆるゆるのゾーニングですが、その中では最も厳しくコントロールされているのが、第一種低層住居専用地域です。用途規制としては、店舗や事務所兼用を容認するにしても、住宅のための地域として原則として混在はさせず、建物の高さは10mないし12mが上限です。形態規制でも、下北沢周辺では建蔽率50%、容積率150%、斜線制限では第一種高度地区(右図参照)、と建物のボリュームが最低に抑えられています。したがって日本の中で比較すれば、敷地にゆとりを持たせた低層住宅だけが並ぶ地区にしかならないので、マンションの宣伝文句のように「第一種低層住居専用地域に暮らす。周辺には、邸宅街として静かに、ゆっくりと成熟してきた街並が広がっています」と謳われることになります。

マンションは火の盾

 次に、通常の分譲マンションがどんな場所に建つのかという条件を調べてみましょう。
 まず分譲マンション会社の経済性が前提になります。マンション販売には小さな戸数規模にしても、常駐の営業マンを含めてモデルルームに数千万円、広告・宣伝費も一千万円単位、何百何千部ものパンフレットも一部一万円、と販売経費がかかります。これを回収するには、どうしても50戸以上の規模が求められます。この規模を第一種低層住居専用地域で成り立たせるには、敷地面積2,000m2以上の土地が必要になります(専有部分の比率90%、容積率150%で試算)。バブル崩壊後に保有社宅もすでに売却された現在では、これだけの広さのまとまった土地は滅多には見つかりません。マンションが第一種低層住居専用地域にあまり見られないのは、マンションデベロッパーのこうした経済性が背景にあります。
 都心のようにまとまった広さの土地があまりない地域では、分譲マンションは容積率の高い商業地域や近隣商業地域に用地を求めざるを得ません。下北沢周辺の都市計画図では、駅前の商業地域は赤色部分で容積率600%、敷地面積は500m2あれば50戸以上になります。帯状になっている近隣商業地域はピンク色部分で容積率300%、敷地面積1,000m2で50戸以上を計画できます。「駅近」も分譲マンションの売り文句ですが、裏を返せば、住宅地にはなかなか計画できないので、駅近くで容積率の高い商業地域(赤色部分)で分譲します、ということに受け取れます。なお隣接地も同じ規模の建物が建つ商業地域ですから、そうなると日照や通風の条件は厳しくなります。駅近の便利さを強調しよう、日中は部屋にいない生活なら日照も気にならないだろう、ということでこうした商業地域ではワンルームマンションが目立つのもうなずけます。

 それでは近隣商業地域とは、どんな場所なのでしょうか? 下北沢周辺の都市計画図でみれば分かるように、環七、梅丘通、代沢三差路など主要幹線の沿道が近隣商業地域に指定されています。こうした近隣商業地域の容積率が300%と高いのは、前面の道路が広ければ、高い建物で出入りする交通量が大きくなっても、渋滞や歩行の危険も避けられる、というのが表向きの理由です。けれども本当の理由は、道路沿いの中高層マンションは「火の盾」になれ、という防災上の措置です。右の図は東京都の防災都市づくり推進計画ですが、都市計画道路の両側に耐火建物の中高層マンション等を並べれば、大地震のときなどに区画を超える延焼を防げる、という発想を端的に表しています。区画の内部には木造戸建てが並びますが、区画を超えなければ区画まるごと炎上しても仕方がない、というずいぶんな割り切りようです。もともとが「火の盾」にという発想ですから、幹線道路沿いのマンションでは騒音・振動や大気汚染がひどくて居住環境としては恵まれない、といっても仕方がないのでしょう。「住居に対して隣接する工場の騒音や大気汚染が迷惑(外部不経済)にならないようにしましょう」というゾーニングの根拠すらなおざりにされています。
 ちなみに、この延焼遮断帯の発想は、関東大震災や戦中の防空都市計画に遡るものです。残念なことに、この延焼遮断帯も、本所被服廠跡や東京大空襲のように、火災旋風という炎の竜巻が発生すれば無力なことは明白でした。それでもなお、居住環境としても厳しい道路沿いに屏風のように中高層マンションなどを並べるというのが改まらないのには、理解に苦しみます。火の盾だからといって、我慢して住んでも大して意味がないのです。防災というなら、区画内の木造戸建て・アパートをまるごと、耐火に優れた鉄筋コンクリート造に建て替えるのが本筋です。

コーポラティブハウスに出来ること

 コーポラティブハウスは、予め入居希望者が集まってから事業が始まります。従って、分譲マンションのように、販売在庫を解消するための余計な販売経費をかけずにすむ、だから戸数規模が小さくても成り立つ、という特性があります。戸数規模が5戸や10戸であれば、第一種低層住居専用地域であっても250〜500m2のちょっと広めぐらいの敷地面積でも成立します。つまりコーポラティブハウスなら、「第一種低層住居専用地域に暮らす。周辺には、邸宅街として静かに、ゆっくりと成熟してきた街並が広がっています」というのが当たり前のようにできるわけです。
 こうした規模の低層のコーポラティブハウスであれば、周りの建物とスケール感を突出させずにすみます。さらに建築家が手がけるのなら、周りの街並みを整えていくような外観が与えられます。こうした設計の力によって、ゆるゆるのゾーニングで乱雑な都市景観も、しだいに秩序づけていくことができます。http://www.mansion-hyoka.com/page/arch04
 またコーポラティブハウスは、当然に鉄筋コンクリート造です。したがって火災にも強く、周りの木造戸建てなどの延焼拡大を食い止める力ももともと備えています。無意味な火の盾よりも、近隣住民には防災上よほど役立ちます。

参考文献: 金本良嗣「都市経済学」(東洋経済新報社・1997)
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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