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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.35 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

「無意識からの住まい選び…五感を潤すコーポラティブハウス」

(株)アーキネット代表 織山 和久

五官を潤す

居心地の良い住まいは、五官を潤します。これまでに触れてきたことを要約しましょう。

【視覚】:巣を作って外敵から守るという5万年間に定着したヒトの習性から、集合、見張り場、死角なし、相互確認といった空間の視覚的要素は居心地良さを左右します。

【聴覚】:静穏な空間では、心地よく眠れて目覚めのよい朝が訪れます。そして自然や暮らしの微かな音に気づき、好きな音楽に心置きなく浸る、という暮らしができます。

【嗅覚】:余計な臭いのしない住まいは、微かな香りを感じ取れることで食事もおいしくなります。そして親しい人の気配を感じ、微風の運ぶ花や土の香りから季節を知ります。

【触覚】:足ざわりや踏み心地、手ざわりのいい住まいは、脳を経ずして皮膚のネットワークを働かせて快い情動をもたらします。

【味覚】:職住近接なほど調理の時間がとれ、だしをとるなどの一手間、一皿多くなど食卓を充実させることができます。イキのいい鮮魚店、青果店、精肉店の揃う街は、おいしさの素です。そして、のびやかで明るい素の空間は、料理も味も映えます。

【平衡感覚】:内耳前庭器では、風による建物の揺れを感じ取ります。それが自然の樹木よりも高いと異常値として検出されて、心身に高所性ストレスが与えて自律神経失調や流産・死産を招くほどになります。心身に優しい住まいを考えるならは、階数はせいぜい6〜7階にとどめておく必要があります。

 居心地の良さを、と素直に考えていけば、こうした空間作用が住まい選びに決定的に重要なことはすぐに分かることだと思います。ところがこうした居心地良いという感覚を意識して、実際の住まい選びに生かすにはいくつか大きな難題があります。心地よさの感覚はほとんど意識されないこと、意識に上る前に認知的バイアスがかかること、実際にずっと住んで確かめられないこと、がそうした難題になります。

ヒトはほとんど無意識に行動する

 知り合いのお宅にお邪魔した後、いい気分になります。何でいい気分になるのかなと振り返ると、にこやかな表情、楽しい会話やおいしい食事などをまずは思い出します。もう少し振り返ると、通されたお部屋が居心地良かったな、とはなるのですが、さりげないインテリアやレイアウトなど空間についての詳細の記憶は曖昧になりがちです。せっかく自分たちの住まい選びの参考になったのに、と残念に思ったりしますが、記憶が曖昧なのは仕方がありません。ヒトはほとんど無意識に判断・行動しているのですから。
ヒトの感覚器官には、五官を通じて毎秒1,100万ビット超の情報が入ります。そのうち視覚から1,000万ビット、触覚から100万ビット、聴覚と嗅覚から各10万ビット、味覚から1,000ビットですが、その情報のうちヒトが意識的に処理できるのは8ビットから40ビット、なんとも100万分の1ほどに過ぎません*1。ほとんどが無意識のうちに処理されます。
 こうした感覚情報が意識にのぼるのは、ニューロンに0.5秒以上の連続発火をもたらした刺激に制限されています。そして意識したときはこの0.5秒の遅れは自動的に補正され、あたかも自分の意志で行動したように思います*2。つまり「窓の下を見ると高くて恐い、逃げるぞ」でなくて、本当は「とにかく後ずさりした、ああずいぶん高層階なんだな」といった具合です。危険を避けるには、意識に上ってから判断していては間に合いません。また、もっと判断に時間がとれる行動については、意識は主として禁止の命令に働きます。「そう、窓は急に開いたりしない、後ずさりしなくていい」といったように。  膨大な感覚情報、それも連続発火時間0.5秒以内の刺激への行動選択には、身体反応が大きな役割を果たしています。つまり過去の感覚に伴って生じた身体・内臓の快・不快を前頭葉腹内側部がパターン化して記憶し、同じような感覚には過去の情動を蘇らせて選択肢に重み付けする、という仮説です。「階段の上り始めに合わせて、いまからどう歩幅を調整しようか」など日常生活には常に数多くの選択肢があるのですが、それぞれをいちいち深く考えていては動けません。意識に上る前に「前に鴨居に頭をぶつけて、痛い目にあった。梁の下がった建物はもうこりごりだ」と大多数の選択肢については時間をかけずに、その採否は身体的に選択されます。
 ネコがいつも一番居心地良い場所にいるように、私たちも無意識の声に耳を傾け、素直に住まい選びに反映させれば、大方は居心地良くなると思います。ところが実際は無意識の感覚や情動は、なかなか意識もできず、選択基準として言葉にもなりにくいものです。そのために実際の住まい選びのときは、駅徒歩○分、専有面積○m2、○LDKといったスペック情報が先に意識に上って8ビットから40ビットの限られた容量を占めてしまい、無意識の心地よさを意識に上るのを邪魔してしまうようです。

認知的バイアス

 さらに厄介なのは、意識に上ってからは必ずしも合理的に判断するわけではなく、さまざまな認知的バイアスが作用しています。限られた情報や時間、能力で効率よくそこそこの結果に至る判断をしないと、人類は生き残れなかったのでしょう。集団生活を円滑に送るためにも、多少、個々人の合理性を超えた判断をした方が良かった、ということかもしれません。そして、この認知的バイアスには多くのパターンがあります。

ヒューリスティック(簡便法):突き詰めて考えるのではなく、とりあえずの判断をしてしまう傾向があります。例えば「モデルルームがにぎわっていたので」「あれ(最初にとびこんだモデルルーム)と比べてどうか」「営業の人が親切だったから」といった選び方です。

同調:周りが自分と異なる判断としていると自分もそれに合わせて、「正しい判断をしたい」という気持ちを満たす傾向です。「抽選になるような人気の住戸だから、きっといいに違いない」「周りの人が、やっぱり大手が安心よ、というので」というのがその一例です。

同調:周りが自分と異なる判断としていると自分もそれに合わせて、「正しい判断をしたい」という気持ちを満たす傾向です。「抽選になるような人気の住戸だから、きっといいに違いない」「周りの人が、やっぱり大手が安心よ、というので」というのがその一例です。

認知的不協和:自分の意見や行動に矛盾があっても、屁理屈をこねたりして認めない姿勢です。「木の家が好き」、でも実際の内装材はプリント合板でも「見た目が落ち着くから十分」と無理に自分を納得させるのがその例でしょうか。

 このように住まい選びの局面にも、「その辺で適当にしたら」とこうした認知的バイアスが登場してきます。もちろん、こうした認知的バイアスがなければ、定食屋の昼のメニューから選ぶ、帰りは徒歩にするかタクシーに乗るかを決める、早指し将棋で次の一手を指す、といったときにいちいち長時間悩んでしまい、無益になります。コンサートや旅行のようにその場限りの楽しい活動なら、認知的バイアスに判断を委ねていても結構です。けれども、長く暮らし続ける住まいを選ぶときは、何となくの認知的バイアスに委ねていると後々後悔してしまうでしょう。そしてここまで読まれてすでにお気づきだと思いますが、メーカー住宅や分譲マンションの販売戦術は、こうした認知的バイアスをとても巧みに利用しています。どのようにしたら、これらの認知的バイアスからうまく逃れて、より合理的な判断が出来るのでしょうか?

実際に長く住んで確かめられない

 「ある賃貸マンションはとても居心地が良くてずっと住んでいる、たまたまオーナーが売りに出すので迷わず買った」というのは、とても賢明な方法です。けれども、大多数はこのように実際に長く住んで、居心地を確かめる機会もなく、選ばざるを得ません。高級ホテルも連泊すると退屈に思えるように、あるいは高層階の眺望も飽きて高所性ストレスがたまるように、住宅展示場や現地販売会、あるいはモデルルームでの短時間の印象と長期の住み心地の印象は結構食い違うものです。
 だからといってプラン図面を読み込もうとしても、専門家でもなければなかなか読み込めるものではありません。風がどんな感じで入ってくるのか、朝昼夕と日の光はどんな感じなのか、この部屋からあそこの部屋はどうつながって見えるのか、ここの空間の大きさは自分の感覚にちょうどいいのか、将来の間取り変更にどれだけ対応できるのか、などなどイメージするのには相当の訓練が必要になります。

よりよい住まい選びのために

 以上のように住まい選びのハードルは、居心地の良さもほとんどは無意識に知覚される、意識に上ると認知的バイアスが不合理な選択を強いる、実際に長く住んで確かめられない、となかなか難物です。それだけに、家は三回建てないと満足できない、と言われるのですが、そんなことは普通出来ません。けれどもハードルの様子が大体見えているので、それらを超える方法も自ずから分かってきます。

雑誌に掲載されたインテリア写真から、気に入ったものを残しておく

 一つ目は、無意識の居心地の良さを意識化する作業です。コーポラティブハウスに参加された方が行われた方法ですが、居心地良さそう、と感じたら、雑誌の写真は切り抜いてスクラップし、知人宅や公共空間、宿泊先など実際の場所なら携帯カメラでバシバシいった撮影してプリントしておく、という作業です。こうして無意識の声を素直に聞いて記録を撮っておいて、次はこうしたサンプル写真をいろいろグルーピングしてみながら、共通の特徴を言葉にしてみる作業です。ソファが陽だまりにあってポカポカ気持ちいい、食器も隠さずおいしさへの期待があふれる、視線が抜ける箇所があって家族の様子が分かる、これぐらいの狭さや凹みがちょうど気持ちいい、といった具合です。

自分にとっての居心地の良さを、言葉して構造化した一例

 このようにして自分の居心地の良さを言葉で表現し、ひとまとまりの考え方として階層構造化できれば、それが一次仮説になります。さらにサンプル写真を撮っていって、この一次仮説にぶつけていってそのまま当てはまればよし、そうでなければグルーピングから表現、構造化をやり直してみる、といった作業を繰り返すうちに、自分の居心地良さについてしっかりした判断基準が出来てきます。ついでに本連載に示したような五官への心地よさの実証分析と照らし合わせてズレがなければ、ヒトの本性にも適っているので長く通用する基準になるはずです。
 二つ目は、自分の判断が認知的バイアスに当たっていないか、と確かめることです。「モデルルームが行列しているから早く決めなきゃ」と思わされたら、この手口に載せられるのは、ヒューリスティック、同調、確証バイアス、認知的不協和などのどれかな、と一歩下がって見直してみましょう。もっと素朴に「それってどうして?」と自問自答しても同じ意味があります。「行列の先の住まいが、そのまま自分にふさわしいということではないな」と考えられます。もちろん、「うまく表現できないけれど、この住まいは直観的に居心地良さそう、認知的バイアスには左右されていない」となれば即断即決でいいはずです。また自分なりの居心地の良さの基準が出来ていれば、認知的バイアスで便宜的な答えを出すまでもありません。

建築家とやりとりしながら一緒に住まいをつくる

 最後に、実際に長く住んでみないと分からない、図面も読み込めるわけではない、という点については、やはり優れた建築家に相談することでしょう。餅は餅屋です。「自分なりの居心地良さがこれこれなのだが、このプランで満足されるのか」と伺えば、設計のコンセプトから読み解いてその適否から、プラン自体の持ち味、ご自身にふさわしい間取りや家具等のレイアウトなども教えてもらうことができます。当然のことながら、「AマンションのXプランとBマンションのYプランのどっちがいい」という質問ではなく、あくまで自分なりの居心地良さから相談するのが前提になります。こうした考え方から、アーキネットでも、ある程度、判断が絞れてきた場合に建築家との事前相談の機会を設けています。組合に参加されてからは、実際に建築家とやりとりしながら、一緒に住まいをつくっていくことになります。

 以上で「五官を潤すコーポラティブハウス」のシリーズを終えます。居心地の良に住まいを選ぶには、やはりネコを見習うことでしょうか。私たちも五官から生まれる無意識の声に耳を傾け、素直に住まい選びに反映させてみましょう。そして認知的バイアスの手口に乗らないように。

*1 トール・ノーレットランダーシュ「ユーザーイリュージョン」紀伊国屋書店 2002
*2 ベンジャミン・リベット「マインド・タイム」岩波書店 2005
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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