都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
「おいしい住まい…五感を潤すコーポラティブハウス」
(株)アーキネット代表 織山 和久
あと一品、あと一手間の時間
主婦にとって理想の夕食の品数は3.2品ですが、「時間がない」(56.3%)、「ストックがない」(54.4%)、「レパートリーがない」(49.5%)ために現実には2.5品にとどまり、91.6%の主婦が「あと一品あれば」と悩んでいるそうです*1。もっと時間の余裕があれば、新メニューに取り組み、食材を買い足して、もう一品できるのに、という切ない気持ちが伝わってきます。そしてそれに呼応するように既婚男性側の不満の第一位は、「少ない品数」(26.3%)という結果になっています。
やはり通勤が長時間になるほど、料理等の家事時間は削られてしまうようです。
右図*2をご覧ください。女性の片道の通勤時間が10分延びれば、10分ちょっと家事の時間が減り、2時間以上になると、一日約50分というぎりぎりの家事時間。時間に追われている様子が伺えます。ちなみに男性は、通勤時間が延びれば、テレビ・新聞等を眺める時間や眠る時間を削っているようです。ちょっとは手伝わないと、ゆくゆくはまずいことになりそうです。
お出汁をとる
いつもよりあと10分あればその10分で、しっかり「お出汁」をとることができます。コンブのグルタミン酸、カツオブシやシイタケの核酸の旨みは、合わさると相乗効果を発揮して、食事のおいしさを飛躍的に高めます。この旨みは、肉類の摂取不足を補ってきたと考えられます。出汁がやみつきになる仕組みは、脂肪や砂糖に対してやみつきになる仕組みと同じです。ドーパミンが作用して快感物質が放出され、それが記憶されて想像しただけでよだれが出るような状態になります。したがってメタボの元になる甘いものや肉の摂取を抑えようとするなら、それらと同じ快感刺激を与えられる食べ物、つまりしっかり「お出汁」をとった野菜・魚料理をとればいいと考えられます。
マウスの実験ですが、離乳期にカツオ出汁を与えられたグループは成体になってもカツオ出汁を好み、離乳期以降に与えられたグループはそれほどでもないそうです*3。ヒトの子どもの嗜好性は10歳ころまでに決まるそうですから、子どもの将来の健康を考えれば、あと10分余裕があるなら、しっかり「お出汁」をとりたいものですね。
家事時間10分増に住宅予算1,000万円増
それでは、食卓を充実させようと、通勤時間を縮めるのにより都心に住まいを求めるとどれくらい予算が増えるのでしょうか?
京王線を例に、駅ごとに急行等を利用した最短の乗車時間と中古マンションの相場とを調べてみました*4。すると片道の通勤時間を10分縮めるには、だいたい1,000万円余分にかかることが浮かび上がります。つまり通勤時間を減らして、調理などの主婦の家事時間を10分多くとるためには、中古マンションで1,000万円余計にかかるという試算です。アーキネットではコーポラティブハウスの計画をするときには、対象地の土地代から住宅の取得予算を試算して周辺の新築マンション相場の80%以下になるか、を目安にしています。この試算の仮定通りであれば、コーポラティブハウスは同額(5,000万円前後)の新築マンションに比べて、おおよそ10分都心寄りの最寄り駅で住まいを構えられます。したがって働く主婦の家事の時間も、毎日10分多くとれることになります。おかずが一品多くつくれ、お出汁もしっかりとれる時間が増え、「あと一品あれば」という主婦の悩みも解消されて、なかなかうまい話です。
魚屋は街選びのポイント
味覚には街選びも大事です。ネットスーパーや宅配サービスが発達して肉類や野菜も入手しやすくなりましたが、鮮魚まではなかなか扱えません。魚類に含まれている不飽和脂肪酸は、人間には必須脂肪酸でもあり、健康食としてますます注目されています。一方の肉類は飽和脂肪酸が多く含まれて、食べ過ぎると動脈硬化を促進し、生活習慣病あるいは癌を招くことが指摘されています。「メタボが心配だから魚主体に食事を転換しよう」と思ったときに、街にいい魚屋がないととても困ってしまいます。
経堂の鮮魚店。店頭にはイキのいい魚が並ぶ |
この鮮魚ですが、同じ産地であっても扱い次第で生臭くもなります。鮮度ももちろん大事なのですが、さらにさばいた後の身の水気をしっかり拭う、トレイも吸水性のいい紙を使う、といったお店がどれだけ身近にあるか、がポイントです。一方では、解凍を急ぎすぎてドリップを出したり、みずみずしさを演出するために魚に霧を吹きかけるお店すらあるので、街選びのときには近くの鮮魚店をよくよくチェックしておいた方がいいでしょう。そして良さそうな魚屋が何軒か競争していたり、若い世代が店を切り盛りしていたりしていれば、将来的にも安心です。
おいしい空間
3階、四面開口で広々とした眺めのダイニング |
味覚は、視覚や聴覚でも増幅されます。同じ甘さのジュースでも、色が濃いほど甘く感じられます。空間の色合いや明るさ、大きさなどを変化させると、味覚の感じ方も変わることが実験結果*5に表れています。緑色の空間では味覚には差がつかないのですが、赤色では甘み、青色では塩味、黄色では酸味が強調されます。空間を明るくしたり、逆に暗くしても味覚は鋭敏になります。そして広い空間、オープンテラスや窓のあるような場所ほど味覚は敏感になります。また、鼻をつまんで食事をしても味がしないように、味覚にとって嗅覚は大変重要な感覚です。においの受容体は388種類なのに対して、うま味や甘味の受容体は1種類づつしかないそうですから、おいしい空間は嗅覚にもよい空間と言えるでしょう。
こうした点を考えると、おいしい空間の条件には、味覚のバランスを崩さないために色彩が強調されていないこと(ただし緑色は別)、他の場所より明るいか暗いこと、のびやかな場所であること、そして風通しがよく加齢臭などがこびりつかないこと、などが挙げられます。結果、おいしい空間の条件は居心地がいい空間の条件とほとんど重なっているのです。
このように「おいしい」を切り口に住まいの必要条件を考えると、通勤時間が抑えられ、イキのいい魚屋が近くにあり、のびやかで明るい素の空間がある、ということになります。時間のゆとりを生かして、しっかりお出汁をとって魚主体の食事にすれば、生活習慣病や癌の心配も解消されるわけですから、「おいしい住まい」かどうかは大変重要です。
*1 |
フジッコ「夕食づくりとお惣菜の活用」に関する意識調査 2010 |
*2 |
平成18年社会生活基本調査 |
*3 |
伏木亨「味覚と嗜好のサイエンス」 丸善 2008 |
*4 |
東京カンテイのマンションデータ 首都圏沿線別・駅別の中古マンション相場 |
*5 |
浅野耕二、長澤夏子、渡辺仁史「空間から味覚への作用及び味覚刺激による空間想起に関する研究」 2006 |
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。