都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
「モビル・スーツと半戸外空間」
(株)アーキネット代表 織山 和久
脳は、身体感覚をその場所ごとに触覚神経組織にマッピング*1します。この身体地図の中では、繊細な感覚を示す唇や顔、手が肥大しています。そして使い慣れた道具であれば、身体を延長して道具の先や作用点まで感覚をマッピングします。イチローのバットはまさに腕の延長なのでしょう。さらに人の周りには、見えない殻のようにペリパーソナル・スペース*2が囲み、親密度に応じた適切な距離感を保つ働きをします。
車を運転するときを思い浮かべてみましょう。道を走るときは、自分は車の大きさになった感覚になり、適切な車両間隔をとります。車庫入れや縦列駐車のときは、左前のバンパーは左膝下、右ドアは右わき腹、後ろのバンパーはお尻の下、のように感じます。そして何かにぶつかると痛みまで覚えます。
いえにんげん |
この観点からすると、住み慣れた住まいも、車と同じように身体の延長として感じられることも頷けます。実際、見知らぬ人が住まいに近づくと、自分の位置とは隔たりがあるにもかかわらず、気持ちは落ち着かなくなります。日差しや風雨が強ければ、住まいの中で体感する以上に暑い、厳しいといった感覚になります。車に突っ込まれたりして壁や塀の一部が傷つくと、痛みに近い不快感も覚えます。
ガンダムではないですが、モビル・スーツを着て操作している感覚とも言えます。超高層ビルなどに居て落ち着かないのは、身体に対してあまりに大き過ぎて身体の延長として上手く脳内にマッピングできないからなのかもしれません。
このように住まいを身体の延長として捉えれば、外と内との間の半戸外空間、つまり庇、バルコニー、中庭、ポーチ、植栽などの大切さが身にしみて分かります。
共用通路は路地感覚で、居住者同士がふれあう場になっている。路地に面した庇やバルコニー、窓は緩衝帯として、内と外を緩やかにつなぐ |
中庭が住戸同士に適切な距離感を与え、何気なく集う場所にもなる。シンボルツリーは互いに交差する視線を和らげ、目の置き場所になっている |
(1)距離感:対人距離や車両間隔と同じように、建物と建物の間隔*3も8mあると安心、最低でも3〜4mとれないと落ち着かなくなります。
(2)密接距離:膝の上に幼子を乗せるように、中庭は身近な人と親しくコミュニケーションできる場所になります。
(3)監視:つま先立って遠目で外敵を見張るときように、一段高く外向けのバルコニーから街行く人々を眺めていれば落ち着きます。そこに親しい人が通れば声もかけられますから、仲間同士の親密さも保ちながら外敵(不審者)に備えることができます。
(4)緩衝帯:着心地のいいアウターウェアのように、庇やバルコニー、植栽は強烈な夏の日差しや風雨を和らげてくれます。丸裸では荒野を過ごせません。
(5)群れとの同化:動物では、外見が群れと同化していれば外敵に目をつけられにくく生き残りやすくなります。街並みはいわば建物の群れですから、建物の外観が街並みに調和していた方が気分は落ち着くのは、建物の外観を身体の延長と捉えているせいでしょうか。
住まいを考えるとき、専有面積や間取り、内装などどうしても内部空間を重視しがちです。そのために建物の周りの部分は、検討を後回しにしたり、なおざりにしがちです。しかし脳内の感覚地図では、無意識に建物は身体の延長ととらえています。したがって心から落ち着く場所とするためには、その距離感や監視、緩衝帯、群れとの同化といった面から半戸外空間を工夫することは大変重要なことなのです。
*1 |
サンドラ・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー「脳内の身体地図」インターシフト 2009 |
*2 |
エドワード・ホール「かくれた次元」みすず書房 2000 |
*3 |
仙田満・矢田努・尾関昭之介「住み手の意識からみた建築の個体距離」 1992 |
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。